エディトリアルデザインの今 Vol.4 田部井美奈

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『楽園に間借り』(黒澤珠々著)。完全に書籍のエディトリアルデザインですね。やはりかわいらしいけれども、ビジュアルが抽象化されているからか、いい意味でクールダウンして見える。

はい、ありがとうございます。表紙と本文のデザインもやらせていただきました。これは、文芸誌の公募新人文学賞を取った小説で、新人作家の本だったんです。なので、作家の名前を出しても誰にも知られていないし、どんな内容の小説かも分からない。なので、平積みされた書籍の中で、あれ、と違和感を感じたり、持っていてかわいいと思える、本というより、パッケージとか、物のデザインをしようと思った。具体的には昔の石けんのパッケージのようなイメージです。

カバータイトルの文字も通常の書体ではないですよね? いい意味で「?」と気になる違和感を感じます。

タイトルの書体は作っています。普通の書体にしてしまうと、サラッとし過ぎてしまって引っかからなかったので、パッケージ感が増すように、ほんの少しだけいじりました。あんまり書体を凝ったものにしてしまうと、それで拒絶感を示す人もいるので、ありものの書体じゃないなというくらいのところで止めています。 本文組みは、とにかく読みやすくということを考えて決めています。

エディトリアルデザインについて、まだ個人名義でのお仕事が少ないということなのですが、ご自身で読まれる際に気にされていることはありますか? また、文字組みをする際に心掛けていることがあれば。

装飾美のほうに傾かず、文章はあくまで文字をきちんと読めるもの(絵の時は絵がちゃんと見えるもの)、そしてその文章の世界を自然に拡張できるものにしたいと考えています。 作業としてはその内容に普通にぴたっとしたものが何なのかをまずよく考えます。一旦それを置いておいて、そこから、より生き生きとさせる方法があるかを探ります。 ですから、内容によっては、ちょうどいい文字組と余白のことだけをしっかり考えれば良い時もあるし、文を解体し、転々とさせて、一見めちゃくちゃなレイアウトにした方が良い時もあります。

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作品をいろいろ拝見していると、田部井さんのデザイン全体が醸し出す雰囲気って、レースにフリルにリボンの典型的なかわいい女の子じゃない。いかにも女の子的なアイコンを敢えて排除して、それでも残っている女の子らしさというか。そのちょっと素直じゃない感じ、そこがいいなあと思っていて。田部井さんがデザインをしていく上で、大切にしていることって何ですか?


きれいとか、かっこいいとか、それだけを頼りにしたものには、見ることも、作ることも、少し落ち着かなさを感じます。
小さいときに家にあって読んでいた星新一の影響もあるのか、人のくせ、間抜けさや、こっけいさ、おかしみ......そういったものにとても興味があり、学生のころ佐藤雅彦さんや大貫卓也さんの作る広告に没頭したのも、そういう事の一端かと思います。人の複雑さと様々な反射と反応、この秘密をデザインを考える上で意識しています。といってもこの秘密解明についてはまだまだかなり不確かで、あいまいなイメージのままなのですが、近い感覚であると思うのが、手塚治虫「火の鳥」の中に出てくるロボットのエピソードです。ある時期とても人気だったロボットがいて、そのロボットはロボットの常識にはあるまじきヘマをしたり、ぼうっとしたり、イライラしたり、そういった事に、人はなぜか惹き付けられたというお話で、たくさんの情報量の中で、用意もなくぱっと何かに惹かれたとき、このロボットの事をよく思い出します。

いいですね。ロボットなのに人間味があるという。完璧で隙のないものよりも、どこかにポッと穴が開いていたりする方が興味が湧く。

そうですね。生っぽさというのでしょうか。頭の中だけの予定調和な経路をたどった、出来合のもの、そういうものは表面だけつるつるで、全然引っかかるものがありません。何か生ものっぽい感じ、それは人の感覚にちゃんと裏打ちされているもの。こういうものを作れている人っていうのは、あらゆる場面で、相当敏感に色々なことを感じ取り、その感じを、必要な機会に再現できる力のある人だと思うし、自分もそうありたいなと思いながらデザインしています。

その微妙なズレの感覚というのは、デザイナーの気質というか性格というか。言葉にはしにくいですが、ビジュアルに表れてくると思います。そういう「ズレ」の感覚を持ったのは、デザインをやり始めてからですか?

子どもの頃や学生時代に見たもの、読んだ本等いろいろな影響があるとは思いますが、社会に出て一番最初に就いた仕事の影響が大きいかもしれません。ロシア製カメラ「LOMO-LC-A」を扱う会社だったんですが、このカメラも、写りが悪かったり、ぼけたり、ぶれたり......。先ほどのロボットにも似ていますね。そういうことを肯定的にとらえて、そうした「ぶれ」や「ズレ」の部分に人が楽しむことの本質的な部分が存在している、そういうことにある種本気で取り組むような仕事でした。 今考えると、あの頃は、忘れてしまった、子どもの頃のような感覚と密接にしながら、デザインとかコミュニケーションの大事な何かを自然と吸収していたように思います。

Text_Keiko Kamijo

 


田部井美奈
1977年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒業。
E&Y、輸入カメラ『LOMO』販売代理店勤務を経て、2003年より有限会社服部一成に勤務、アートディレクター服部一成のもとで広告、CI、パッケージ、書籍、雑誌などのデザインを担当。2006年より個人の仕事もスタート。2009年、アトリエ「Kvina」に参加。
http://www.minatabei.com
田部井美奈が参加しているkvina(クビーナ)のインタビュー記事はコチラ

田部井のProfileページはコチラ

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