まだまだ続く北村佳奈の公開制作

img01-1.jpg 2011年9月の東京のギャラリーで、北村佳奈はひたすら絵を描いていた。
三軒茶屋のgalleryHで行われた彼女の個展『ハッピーテラピー』の開催期間中に、公開制作で一枚の巨大な水彩画を描いていたのだ。個展の初日から描き始めて、作品が仕上がったのは2週間後の最終日。毎日休まずに通って描いていたというから、彼女自身も展示作品の一部だったと言っていいだろう。 彼女の網膜の特殊なプリズムを通してカラフルに分解された光を、水彩絵の具をモザイク状に敷き詰めていくようなスタイルで表現する彼女の作風に興味を持ってポートフォリオを見せてもらったところ、このスタイルに辿り着いたのはどうやらつい最近のようだ。今回は最新の展示を中心に、彼女の描こうとしている"何か"について話を聞いた。
※文中に出てくる個展で発表した作品は彼女のProfileページで一部閲覧可能です

文化服装学院ではファッションデザインの勉強をしていたんですよね。絵は独学ですか?

はい。文化でもファッション画の授業はあったんですが、デッサンなどの本格的な絵の勉強はしたことはありません。デッサンの授業はあったんですが、石膏像に興味が持てなくて。でも子供の頃から絵を描くのは好きでした。家族みんなで山に行って滝の前で写生大会をしたりとか。卒業してからもとにかく絵を描きたくて、新卒で就職したアパレルブランドもすぐに辞めちゃったんです。

思い切りましたね。もったいないというか(笑)。ほどなくして応募したコンペティションで大賞を受賞しますね。

TIS(Tokyo Illustrators Society)が主催したTOKYO illustration 2007で大賞をいただきました。国立新美術館で展示したかったので、すごく嬉しかったですね。でも賞を頂いた作品のスタイルは、その後すぐにやめてしまいました。色々と考えているうちに、当時描いている絵ではまだまだ甘い気がして。もっと掘り下げたいと思ったんです。
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Art work for a Magazine "ROCKS", SHIBUYA PUBLISHING & BOOK SELLERS


そこもまた思い切りましたね。キャリアプランを考えると、スタート時点で大きな評価を得たスタイルを捨てるのは簡単なことではありません。とにかく、そこから今までよりもさらに色を細かくはっきりと分解していくスタイルになっていくんですね。

描いてるうちにどんどん細かくなってきたんですよね。描く対象をじぃっと見ているうちに色がいっぱい見えて来るので、それを全部描こうとするうちに段々とこうなったんです。ほら、この女の子の肌をよく見たら血管の青だけじゃなくて、赤とか緑とかたくさん色が入っているでしょう?(と言いながら小さな雑誌の切り抜きを見せてくれたけど、僕にはただの小麦色にしか見えない)
でもいくら描いても自分の納得できる作品ができなくて、二年ぐらい悶々と悩んでいました。もっと良い作品になる予感はあるし、もっとやりたいことがある。でもいくら描いても全然向上しないしその方法がわからない。最後の方は絵を描くのが辛くなるぐらいに本当に苦しかったんです。そんな日々を送っているうちに、昨年の6月にタンバリンギャラリーで展示をするチャンスが巡って来ました。「絵の具をアクリルから水彩に変えたらどうかな」とぼんやり考えていた時期だったので、これをきっかけに水彩の作品に取り組んでみよう思って、個展のために一ヶ月ぐらいで一気に描き上げたんです。

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個展作品"ETERNAL ROOM", 2011年


それが個展『オーロララ』の一連のシリーズなんだ。つまり現在のスタイルは個展直前の一ヶ月で開発されたわけですね。水彩にスイッチしたことで作品の表情がぐっと豊かになりましたね。

アクリルだと思い通りになっちゃうんですよね。操れるといえば操れるけど、新しいことは起きないというか、自分の想像を超えた何かを生みだす力も私にはなくて。それが水彩で描き始めた途端に「あれ、なんか楽しい!」みたいな(笑)。「まだまだ上を目指せる」という気持ちで今は描いています。

その後8月に『ETERNAL ROOM』、9月に『ハッピーテラピー』と矢継ぎ早に個展を開催しましたね。画材を水彩に変えたことで、北村さん自身だけでなく取り巻く環境も大きく動き始めたのかもしれません。『ハッピーテラピー』では2週間に及ぶ公開制作で、とても大きな作品に挑戦しましたね。これは始めから企画していたんですか?

いえ、展示の二日前から描き始めたんですが、単純に間に合わなかっただけなんです。それでギャラリーの方に「間に合わないかもしれないので他の作品に変えるかもしれない」と相談をしたら、「公開制作をして良いよ」と言って下さったので思い切って挑戦しました。私は2-3日でできると思っていたんですが、周りのみんなは絶対無理だと思っていたみたいで、あっさりと決まりました(笑)。 結局、個展の期間中は嵐の日も休まずに毎日通ったんですが、出来上がったのは最終日でした。しかも間に合いそうになかったので、家に持って帰って描いたりもして。やはり絵が大き過ぎたんですかね。保管場所もないので、しばらくはこのサイズで描くのはやめようと思ってます(笑)。もちろんチャンスがあればまた描きたいですけどね。

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個展作品"ハッピーテラピー", 2011年


なんか常にドタバタしてますね(笑)。とにかく現在のスタイルになってからまだ半年余りで、その間にもどんどん密度が上がり洗練されている気がします。これからもまだまだスタイルは変化しそうですね。

私の中では「スタイルを変えていく」というより、「作品を掘り下げて極めていこう」という感覚に近いかもしれません。そしてそれは私にとって戦いです。今のスタイルには手応えを感じているけど、もっともっと良くしたい。今を超えたいんです。そうするうちに結果的にスタイルが変わっていくのかもしれません。 私はゼロから絵を生み出すよりは現実が描きたくて、現実を超えたいと思っています。だからこれからは、自分で作品のための写真を撮っていきたいですね。絵の仕事が増えたら、色んな国に行って、そこでたくさん写真を撮り、そしてまたその絵を描きたいんです。


ようやく手応えを感じた作風に出会えたようだが、どうやらまだまだ変化の途上にあるようだ。そうだとしたら、これから彼女が発表していくであろう作品の数々を、楽しみに見守っていきたいと思う。作品の出来る過程を見ながら作家の思考の過程を想像し、時には寄り道や沈黙を共有し、その間にアレコレと話を聞く公開制作の観客のように。

Text_Kenji Mori (BUILDING)



 

 【個展"ハッピーテラピー"での公開制作】

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北村 佳奈
1984年生まれ。文化服装学院アパレルデザイン科卒業。
http://cancan.kitamurakana.com/


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