赤羽美和に聞く「ストックホルムで学んでいること」

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サントリーの宣伝部からサン・アドに移籍し、グラフィックデザイナーとして充実した日々を送る。そんな(同業者なら)ちょっと羨ましいキャリアをきっぱりと捨て、赤羽美和は現在ストックホルムの美大に留学してテキスタイルを学んでいる。「ストックホルムと美大」の関係について思いを巡らすと・・・うーんイマイチうまく想像ができない。僕のまわりには北欧でデザインを学んだグラフィックアーティストが一人もいないからだ。そこで、夏休みを利用して東京に帰省していた彼女に、アレコレと質問をぶつけてみた。

いつごろから留学したいと思っていたんですか?

2-3年前にヘルシンキを旅行した時、偶然テキスタイルデザイナーのVuokko Nurmesniemiの展覧会を見てテキスタイルに興味を持ちました。そして、だんだんと留学という手段もあるのではないかと考え始めました。留学経験のある同僚の話を聞いたり、直接教授と面談のアポを取るメールをやりとりしたり、実際現地の学校を訪ねたり、英語の勉強を始めたり、そのうちにまた新しい知合いが増えたり...と、そういうプロセスが楽しかったです。動きながら考える、という気持ちでした。

積極的ですね。でも結局フィンランドではなくスウェーデンに行かれたんですよね。

最初はヘルシンキの学校を見ていたんですが、フィンランド人のデザイナーにファイルを見せる機会があって。彼ら曰く、ストックホルムの方が都市として大きいから面白いよと。元々グラフィックデザインをやっていたなら、なおさら大きい都市の方がおすすめだと。結局、ヘルシンキの美大は不合格で、ストックホルムの美大に合格したのでそのままスウェーデンへ...。

スウェーデンでも授業は英語なんですか?

そうです。MA(大学院)は英語でやってくれます。合格ギリギリか、もしかしたら足りてないくらいの語学力で入ったので苦労しています。でもクラスメイトがみんな良い人なので、会話のスピードの遅い私を待ってくれています(笑)。

ところで日本の美大ではグラフィックを学んで仕事もグラフィックデザインですよね。なぜテキスタイルの勉強をしようと思ったんですか?

長く使われるプロダクツデザインって良いなぁと思っていたんです。寿命の短い広告デザインへの反動もあったかもしれません。そして、ヘルシンキへの旅行で刺激を受けたりして、テキスタイルだったらグラフィックとプロダクツの中間でいける...んじゃないか?と。家具デザイナーとか他分野のデザイナーとのコラボレーションもしてみたいという気持ちもありました。広げたり、包んだり、巻いたり、インテリア、ファッション...と、テキスタイルの色々な形に変化することにも魅力を感じています。

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やはり以前から北欧のデザインに惹かれるところはあったんですね。

北欧のシンプルなデザインが好きだったことと、実際に旅行してみて、とても馴染める感覚がありました。あと、ずっと以前からイラストの色遣いなどについて、自分は意識していなくても周りの人から北欧っぽいねと言われることが多く、自然と北欧というワードに親近感は持っていたかもしれません。で、実際に北欧に行ってみると、日本では北欧っぽいと言われた作品が逆に日本っぽいと言われることが多くて、あれ?みたいな。ともあれ、こちらに来て色々と試行錯誤しているうちにやはり作風は変わって来ていますね。相変わらず自分の中では日本っぽくとかスウェーデンっぽくとかは考えずに作っていますが。

作風はどう変わってきているんですか?

以前は描く前に「木を描こうとか、鳥にしようかな」なんて考えてから手を動かしていたんですが、今は「とりあえず描こう」という感じでノープランで作り始めることも増えました。定期的に教授とミーティングするんですが、とりあえずたくさんスケッチしなさいと言われて。始めの頃は「とりあえず描けと言われても...」と悩みました。広告の仕事ではお題があってからデザインが始まるので。ある時、手元のマスキングテープをちぎったりいじくり回してスケッチしたものを元にパターン柄を作ってみたら周りの評判が良くて何か吹っ切れた気がしました。最近の作風はより抽象的になっていってます。自分の無意識な所で作ったものからまたインスピレーションを受けてまた手を動かす、という作り方に今ははまっています。自分で予想しない形が生まれるのがとても楽しいです。

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でも授業だから一応はロジカルに進められるんですよね?

いや、自主性に任させれているという感じです。MAだからかもしれないですけどね。あとはこの学校(Konstfack)のテキスタイル科はアート色が強いってこともあるかもしれません。テキスタイル科なのにビデオアートを作ったりとか、ファッションでもコスチューム色の強いものを作ったりしている人が多い。他の学生が作っている作品を見て、「こんなコトしちゃうんだ...」なんて意外性に驚いたり、展示空間全体の作り込みはプロフェッショナルな仕事ぶりですごいです。いつも様々な刺激を受けています。

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(左)他学生の作品 (右)春先のウィンドウディスプレイ

北欧のギャラリーで展示をした日本のアーティストの話しとかはあまり聞いたことがないんですが、アートは盛んなようですね。ファインアートではなく、僕らのようなグラフィックアーティストも活躍していますか?

たくさんいますね。BUILDINGのように、ファッションやカルチャー寄りのアーティストを集めたギャラリーもありますよ。また、インテリアショップは街中にゴロゴロありますね。スウェーデン人は自分で手を加えるのが好きな人達なので、包装紙やカード、色のついた布みたいなものはみんな良く買っているようです。スーパーの隅にもそんなコーナーがありますし。特にクリスマスシーズンはとても華やかです。

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元劇場を改築したインテリアショップ

普段の生活にもアートが浸透しているんですね。

ストックホルムは地下鉄の各駅にアート作品が置いてあるのですが、駅によって趣向が違って面白いです。日本だとお地蔵さんとか神社がいたるところにあり、皆そのことを当たり前のこととして見ていると思いますが、そんな感じでアートが街に溶け込んでいるような気がします。建物を設計する時も予算の何%をアートに割かないといけないとかあるそうです。私は選択しませんでしたが、駅や広場などに置くパブリックアートを提案するという授業もありました。予算や制作行程を含めた提案を求められるなど、かなり実践的な内容だったようです。プレゼンはそのパブリックスペースを管轄している団体、担当者へ向けて行ったそうです。
企業側も学生を応援することに積極的なようで、作品が良ければそのまま商品になったりという展開もあるようです。

さて、あと一年で卒業ですが、その後のことは考えていらっしゃるんですか?

まだ具体的には考えていません。でも、どうなるかわからない状況を楽しみたいなと。 先日私がとても興味を持っているベルリン在住のデザイナーの方に会う機会があったんですが、彼女が「特にこうなりたいとか目標を決めずに、目の前のことを色々やってるうちにこうなった」と言っていたのが印象的でした。あまり先々の事を決めすぎず、とにかく気になったことは出来る限りやる。迷った時は「やらないよりはやったほうがいい」と呪文のように唱えています。やらないで後悔したくはないですね。

Text_Kenji Mori (BUILDING)


赤羽 美和
1977年生まれ。武蔵野美術大学卒業。サントリー宣伝制作部を経て、広告制作会社サン・アドに勤務。在籍中より個人制作としてテキスタイルパターン柄などの制作を始める。現在、スウェーデンの国立美術大学 Konstfackに在学中。

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