小井田由貴 インタビュー
木版画家 小井田由貴。読者の中には彼女の作品を北欧雑貨/インテリアショップ「ILLUMS」で見たことがある人もいるだろう。モチーフのシェイプが潔くカットされた木版画の上に、絶妙なバランスでアクリルペイントが施された瞬間に、彼女の作品は木版画の持つ牧歌的な印象を脱ぎ捨てる。ニットキャップや木製のそりといった温かみのあるモチーフなのに、彼女の作品と対峙する自分の姿勢を正したくなるほどピリっとした緊張感に溢れているのだ。どんなにモダンな部屋にでもフィットする彼女の洗練された作品のファンの中には、一線で活躍中のグラフィックデザイナーも少なくない。決して多作ではないが、自らの信念に真摯に向き合ってきた彼女に、閑静な住宅街の中にあるアトリエで話を聞いた。小井田さんの作品や身の回りのモノを選ぶセンス、例えばこのアトリエにあるインテリアや本を見ていると、きっと子供の頃から良いデザインのモノを見て育ったんだろうなという気がします。
物心ついた頃から、まわりに様々なクリエイターの方がたくさんいました。両親とも美大を出ていたのと、特に父親が建築家だったこともあり、ジャンルを問わず色んなクリエイターに囲まれて育ちましたね。そういう人達を見て、子供ながらに「楽しそうだなぁ」と感じていました。家では北欧の家具に触れたり、『花椿』を読んで刺激を受けたりと。当時はタイトルも知らなかったんですが、とにかく「本物」は見ていたんだと思います。高校を卒業して美術系の学校に入学したのも、すごく自然な流れでしたね。
学生時代から既に版画の勉強をしていたんですか?いえ、生活デザイン科だったので、椅子とか机とかカトラリーなんかのデザインの勉強をしていました。編集や建築、プロダクトデザインなどの授業も受けていましたが、版画は自主的に勉強をしていたんです。
卒業してからは、ギャラリーを借りて個展をしたりアルバイトをしたりしていたんですが、5年くらいしてから「このままずるずるやっていてもダメだ」と思って作品制作を仕事にしようと思いました。
当時から木版画を制作していたんですか?
はじめはシルクスクリーンだったんですが、青森県三戸町立現代版画研究所に美大生として参加するようになってから木版画に変わりました。シルクよりも個性が出せることがわかったので。
お皿や靴など、身の回りのものがモチーフになることが多いですね。
日常で目にするものや、置いてあるものが美しく素敵であって欲しい、そう潜在的に思ってしまうんですよね。同じボトルでも、デザインの悪いボトルが置いてあるのは絶対に嫌なんです。無視できないというか。どうでも良いものがどうでも良くない。椅子も何でも良いというわけではなくて、「この椅子に座りたい」と思うものでなければいけない。だから、作品をつくる時に自然と身の回りのものに目が行ってしまうのだと思います。
作品のモチーフや雰囲気、そしてILLUMSで作品を販売していることなど、小井田さんというと北欧とのつながりが強いイメージがあります。
私が北欧を好きなのは、(北欧の)デザインだけでなく街や人がシンプルでありながら、それがかえって本質的な豊かさを感じさせてくれるからですね。それに、子供の頃から北欧の家具に囲まれて育ったので、たぶんはじめから親しみがありました。それはきっと親から受け継いだものだと思います。
実際はそんなつもりはないのですが、私のことを少し知っている人には、北欧モチーフの作品ばかり作ってると思われるみたいです。だからこれからは、もう少し自分の個性を強く表現することを意識していきたいですね。
と言っても、北欧好きは一生変わらないと思いますが(笑)
小井田さんの作品はモチーフをきわめてシンプルな形にしていきますよね。シンプルというか削ぎ落してフォルムがまったく変わるほどに。そこにアクリルを載せていくのはそこまで変形したフォルムを補完する意味もあるのでしょうか?私は人間関係も含めて全てシンプルであることを好みます。余分なものはいらない。必要なものしかいらない。付属品とかいらない。とにかく削ぎ落してく作業が好きなんです。私の場合は、削ぎ落とすことで個性が出ると思いますし。
(ワッフルの作品を指しながら)例えばワッフルには型を押して凹んだ所があるじゃないですか。そこに段差ができて影ができますよね。アウトラインもギザギザしていたり。そこが魅力なんですよ。色もなにやら食べ物らしからぬ色なんですが、私にとってワッフルはとても綺麗な色なんです。
つまり小井田さんが魅力を感じる部分を再構築するとこうなる、ということなんですね。
そうですね。人は普通こんなところに魅力に感じないかもしれないけど、ワッフルでもテーブルに置いている時に光の当たり方によって綺麗に見える瞬間がある。そういうのを大事にしています。
自分なりにどこに魅力を感じているのかを把握していないと、その対象にも失礼じゃないですか。そうでないと、ただの説明するための図柄になってしまいます。
作品づくりとは本来そういうものなのでしょうね。一点一点に対して緊張というかエネルギーが必要とされますが。私、緊張するのが大好きなんです。逆にだらだらするのが大嫌い。ただなんとなくお茶を濁して当たり障りの無いことを話してみんなと仲良くなることよりは、目標を決めてぶつかり合いながらもちゃんと通じ会えた、そういう時が嬉しいんです。だから基本的に人に嫌われることは平気です。誤解されて好かれているよりは、スパッと嫌われている方が気持ち良いくらい。「ああ、私のこと嫌いなんだな」って(笑)
その潔さが作品の緊張感を生んでいるのかもしれませんね(笑)。ところで作品を作る時に人の意見は参考にしないのですか?
絶対にしません。でも、尊敬している目利きの人に絵を見てもらう時に「この人は何ていうかなぁ」ということは考えます。良いと言われても悪いと言われてもOK。もちろん、良いと言われると嬉しいけど。
小井田さんは、色んな事において近道をしようとはしないですよね。遠回りだとわかっていても、自分が納得できないことは絶対にしない。でも、作品を一目見ただけでそれとわかる個性があるし、ファンも着実に増えています。では最後に、これからどうなりたいか、ということを聞かせていただけますか?
自分の作品をもっとたくさんの人に見てもらいたいと思っています。欲を言えば世界中の人に。そして、文学とか科学といった絵とは異なるジャンルの一流の人達の前であっても、自信を持って「これが私の作品です」と言えるものを創っていきたいです。
Text_Kenji Mori (BUILDING)
小井田 由貴
東京都生まれ。
武蔵野美術大学短期大学部卒業
青森県三戸町立現代版画研究所修了
1997年より出版物、企業とのコラボレーション、個展などを中心に活動を開始する。
http://yukikoida.com/
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